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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)10752号 判決 1998年1月30日

原告

原田與雄

右訴訟代理人弁護士

空野佳弘

被告

堺市畜産農業協同組合

右代表者代表理事

前田耕作

右訴訟代理人弁護士

妙立馮

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(主位的請求)

被告は、原告に対し、七六一万三七五四円及びこれに対する平成九年一二月四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(予備的請求)

被告は、原告に対し、九二九万四六六〇円及びこれに対する平成七年一一月一二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四五年八月一八日、被告に採用され、以後被告において稼働していたが、平成七年三月三一日、被告から、同年五月三一日付けで解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)を受け、同日をもって被告を退職した。

なお、原告に支給されていた給与は、毎月一五日締め、二〇日払いで、原告は、平成七年六月支給分まで、各月額三二万一八〇〇円の給与の支払いを受けた。

2  被告の退職金規程は、昭和五一年二月に改定され、支給率が変更された(以下、右改定前の退職金規程を「旧規程」といい、改定後の退職金規程を「新規程」という。)が、新規程の支給率は、旧規程に定められた支給率より低いものであった。

3  主位的請求原因

(一) 被告の職員の退職金は、本給月額に勤続年数に応じた支給率を乗じて算定するものとされているが、被告は、右退職金規程の改定に際し、昭和五一年二月一日より前に就職した職員については、旧規程の支給率を適用する扱いとした。旧規程によれば、原告の勤続年数に対応する旧規程の支給率は四七・四九である。

ところで、被告の給与規程一五条一項によれば、「職員が現に受けている号俸を受けるに至ったときから一二ヶ月を下回らない期間を良好な成績で勤務したときは毎年四月一日定期に一号俸上位の号俸に昇給させることができる。」と定められている。原告の平成七年三月の時点における本給月額は三二万一八〇〇円であったが、右規定により、原告の本給月額は、同年四月一日以降、六八〇〇円増額され、三二万八六〇〇円に昇給したというべきである。

したがって、原告に支給されるべき退職金額は、右本給月額三二万八六〇〇円に四七・四九を乗じて算定した一五六〇万五二一四円である。

しかるに、被告は、原告に対し、退職金として、八六五万一〇六〇円を支払っただけで、残金六九五万四一五四円が未払いである。

(二) また、被告は、平成七年四月ないし六月分の賃金として支払われるべき昇給分合計二万〇四〇〇円(右増額された六八〇〇円の三か月分)の支払いをしない。

(三) 被告の給与規程二一条一項によれば、被告は、毎年六月、職員に対し、期末手当てを支給することが定められている。期末手当ては、賃金の後払いの性質を有するものであるから、平成七年六月分までの給与の支給を受けた原告には、当然に、同年六月支給分の期末手当ての支払い受ける権利があるというべきである。そして、慣例によれば、六月に支給される期末手当ては、基本給の二か月分とされていたのであるから、原告の平成七年六月支給分の期末手当ては、右昇給後の基本給の二か月分の六五万七二〇〇円となるにもかかわらず、被告は、その支払いをしない。

4  予備的請求原因

(一) 仮に、原告の退職金算定に新規程が適用されるとした場合、原告に支給されるべき退職金は、基本給月額を三二万一八〇〇円としても、計算上八六五万一〇六〇円となるところ、被告の退職金規程(新規程)二四条二項は、「職員が整理による退職をした場合には前項の倍額を支給する。」と規定し、通常の退職金の二倍の額の支給を定めている。本件解雇は、被告の業務上の必要に基づく普通解雇であり、原告は、本件解雇によって被告を退職したのであるから、「整理による退職をした場合」に該当するというべきである。

したがって、原告に支給されるべき退職金額は、右八六五万一〇六〇円の倍額の一七三〇万二一二〇円であるにもかかわらず、被告は、原告に対し、退職金として、八六五万一〇六〇円を支払っただけで、残金八六五万一〇六〇円が未払いである。

(二) 前記のとおり、被告は、原告に対し、平成七年六月に基本給の二か月分の期末手当てを支払うべきであり、原告の基本給月額を三二万一八〇〇円として計算しても、右期末手当ての金額は六四万三六〇〇円となるが、被告は、その支払いをしない。

5  よって、原告は、被告に対し、主位的に未払退職金六九五万四一五四円、未払給与(平成七年四月ないし六月に支払われるべき昇給分)合計二万〇四〇〇円及び未払期末手当て(平成七年六月支給分)六五万七二〇〇円の合計七六一万三七五四円並びに右金員に対する平成九年一二月四日(右支払いを求める準備書面が被告に送達された日の翌日)から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、予備的に未払退職金八六五万一〇六〇円及び未払期末手当て(平成七年六月支給分、ただし、基本給月額三二万一八〇〇円の二か月分)六四万三六〇〇円の合計九二九万四六六〇円及び右金員に対する平成七年一一月一二日(訴状送達の日の翌日)から支払いずみまで同じく年五分の割合による遅延損害金の支払いを、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

ただし、職員の給与は、毎月一五日締め、翌月二〇日払いである。

2  同2のうち、被告の退職金規程が昭和五一年二月に改定され、支給率が変更されたことは認め、その余は争う。

なお、新規程が施行されたのは、同年五月一日である。

3(一)  同3(一)のうち、被告が原告に対し退職金として八六五万一〇六〇円を支払ったことは認め、その余の主張は争う。

(二)  同(二)及び(三)の主張は争う。

4(一)  同4(一)のうち、被告が原告に対し退職金として八六五万一〇六〇円を支払ったことは認め、その余の主張は争う。

被告の新規程二四条二項所定の「整理による退職をした場合」とは、整理解雇すなわち企業の経営の合理化または整備にともなって生ずる余剰人員の整理としてされる解雇を指す。被告が原告に対してなした本件解雇は懲戒解雇であるから、右規定が原告に適用されないことは明らかである。

(二)  同(二)の主張は争う。

四(ママ) 被告の主張

1  被告においては、昭和五一年二月、旧規程が改定され新規程が制定されたのであるから、原告の退職金も、新規程に基づいて算定されることになる。そして、被告は、新規程に従い、原告の退職金を八六五万一〇六〇円と算定し、これを支払ったのであるから、被告に退職金の未払いはない。

2  被告には、期末手当ての受給資格についての明文の規定はなく、六月一五日の時点で被告に在籍している職員に対してのみ、期末手当てを支給するのが慣行であった。原告は、六月一五日以前に被告を退職しており、右慣行に基づく受給資格を有しないから、平成七年六月支給分の期末手当ての支払請求権はない。

3  また、被告における定期昇給は、毎年六月ころ通知される大阪府総合畜産農業協同組合連合会(以下「総畜連」という。)の給与表を参考にして作成した案を、被告の組合長が決済(ママ)し、七月に、四月に遡って支給されていた。そして、四月以降六月一五日までの間の退職者に支給する退職金は、昇給前の給与を基準として計算され、また、右退職者に対しては、昇給差額分の支払いはしていない。

被告においては、右各慣行が確立していたというべきであるから、原告の昇給分の支払請求は失当であり、退職金額の計算も誤りである。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1  被告の主張はすべて争う。

2  仮に、昭和五一年二月一日以前に採用された職員の退職金についても新規程所定の支給率が適用されるとしたら、新規程は、旧規程に比して職員に不利益な内容であり、したがって、新規程の適用は、就業規則の不利益変更に該当する。そして、右不利益変更を是認すべき事情はないから、原告に対し、新規程を適用することは許されないというべきである。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  前記当事者間に争いのない事実、(証拠・人証略)、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  原告は、昭和四五年八月一八日、被告に採用され、金融、配合飼料の配達、処理センターの機械管理等の業務に従事したのち、購買課長の地位に就いていた。

2  被告における就業規則は、被告の上部組合であった大阪府酪農農業協同組合連合会(以下「府酪連」という。)の就業規則に準じて定められ、退職金に関する規定についても、同様であった(旧規程、<証拠略>)。

ところが、昭和五〇年末ころ、大阪府畜産農業協同組合連合会、府酪連、大阪府養鶏農業協同組合連合会及び大阪府食鶏販売農業協同組合連合会の四連合会の合併が企図され、昭和五一年二月一〇日、右合併の結果、総畜連が設立された。そして、総畜連が被告の新たな上部組合となったため、被告は、就業規則を総畜連と同一の内容に改定することとし、さらに、給与規程についても、総畜連の規程をもとに、被告の組織に合わせた訂正等を行って、堺市畜産農業協同組合給与規程(新規程、<証拠略>)を定立したが、この規程の内容は、概ね総畜連の給与規程と同一であり、退職金についても、右給与規程に定められていた。そして、新規程は、同年五月一日から施行された。

退職金計算につき、旧規程と新規程とを比較すると、いずれも本給月額を基礎としているが、支給率は、旧規程が別紙1に、新規程が別紙2に、それぞれ記載したとおりであり、算出された退職金額は、旧規程による方が、新規程によるよりも、高額であった。

3  山崎賢二(以下「山崎」という。)は、そのころ、被告に参事として勤務し、事務局の最高責任者として、職員の給与計算等の業務に携わっていた。

山崎は、退職金規程の改定に関し、「第5条 退職金の額は退職又は死亡の時の本給月額にそれぞれ退職に至るまで次に掲げる各率の支給率を乗じて得た額の合計とする。ただし、昭和51年2月1日以降就職した者については大阪府総畜連の規定を準用することとし、それ以前の退職については、本規定を併用する(52・10・5)」と記載し、捺印した付箋を作成し、右附箋を旧規程の五条(退職金の支給率を定めた規定)が記載されている頁に貼り付けた(<証拠略>)。

山崎は、昭和五三年六月三〇日、被告を定年退職し、山崎が行っていた業務は、同月被告に採用された豊永眞自(以下「豊永」という。)に引き継がれた。

4  被告においては、昭和五一年二月以前に就職し、同月以降に退職した職員が原告以外に五名いた。その氏名及び在職期間、退職時の本給額、支給された退職金の金額等は、別表記載のとおりであるが、このうち、中尾儀三(以下「中尾」という。)の退職金は山崎が算定したものであり、池内志名子(以下「池内」という。)及び奥井一男(以下「奥井」という。)の退職金は、豊永が新規程に基づいて算定したものであった。また、山崎及び中岡藤吉の退職金はそれぞれ三〇万円の特別加給を含んでいた。

5  被告は、組合員に対する乳牛の配合飼料の供給等の業務を行っており、飼料配合設備等を保有していた。そして、右飼料配合設備等が故障した場合、軽易、簡単な修理は、被告の飼料担当職員が行っており、その際溶接を行うこともあった。被告は、平成六年一〇月、原告を購買課長(飼料担当職員)に任命することとしたが、原告に溶接技術を習得させて、必要に応じて溶接業務に従事させようと考えた。原告は、被告から、その旨の通告を受けたが、以前溶接で目を痛めたことや溶接の技術や資格がないことを理由に拒否した。被告は、経験者の指導を受けて溶接業務に就くよう求め、やるだけやってだめなら考えるなどと述べて再三説得したが、原告は、受け容れず、業務の引継ぎができない状態が続いた。

6  被告は、平成七年三月三一日、理事会を開催し、原告の出席を求めたうえで、原告に対し、溶接業務を行わないのであれば、同年五月をもって退職するよう勧奨したが、原告は、自ら辞めるつもりはない、被告が原告を必要としないというのであれば解雇するよう主張した。そのうち、被告の役員から、原告を懲戒解雇に付するとの発言があり、原告が反駁するなどの事態に至ったが、結局、原告に対して、退職金規程に定められた退職金を支給することとして、被告が原告を解雇し、原告もこれを了承することとなった。

なお、右協議の際、原告が右解雇が整理解雇であり、新規程に定められた二倍の退職金が支払われるべきである旨を主張したのに対し、被告は、整理解雇であることを否定し、二倍の退職金の支払いを拒否したが、原告に支給される退職金の金額については、それ以上の話合いはなされなかった。

7  その後、原告の平成七年六月支給分の給与の支払いについても意見の食い違いが表面化したが、協議の結果、被告が原告の同月支給分の給与の全額を支払うこととなった。さらに、原告は、被告に対し、前記退職金の倍額の支払いを求めたり、平成七年四月一日付けで一号俸昇給しているはずであるとして、差額の支払いや同年六月に支給されるべき期末手当ての支払いを求めたが、被告は、回答を保留した。

原告は、平成七年六月一日、被告から、六月支給分の給与や退職金の明細書、離職証明書等の書類が入った封書を受け取ったが、退職金は倍額加算がなされておらず、右離職証明書等の離職理由は懲戒解雇とされていた。また、この封書には、原告を就業規則五〇条三項(上司の指示に対して正当な事由なく反抗し若しくは暴行強迫を加えたもの)に基づいて懲戒解雇に付する旨の辞令も同封されていた。

8  原告は、退職金が倍額加算されておらず、さらに、懲戒解雇の辞令が送られてきたことにつき、電話をかけて、被告に抗議したが、被告からは、明確な回答が得られなかった。そこで、原告は、労働基準監督署での相談や大阪市の法律相談を経て、本件訴えの提起に至った。

二  右認定の事実関係に基づき、原告の主位的請求について検討する。

1  被告においては、総蓄(ママ)連の設立にともない、就業規則が改定されるとともに、退職金規程も改められることとなった(新規程)のであるが、原告は、新規程の定立にもかかわらず、原告を含む昭和五一年二月一日以前に採用された職員の退職金計算については、旧規程に定められた支給率が適用される旨を主張する。

2  しかしながら、前記付箋の作成に至る経緯は明らかでなく、この付箋の記載が昭和五一年二月一日以前の採用者と同日以降の退職者とで適用される規定を区別したり、「併用する」との文言を用いるなど、その趣旨が必ずしも明確でないうえ、右付箋が被告の正規の規則として、山崎の後任者である豊永に引き継がれたことが認められる客観的な証拠もない(<人証略>は、引継ぎを受けていない旨を供述している。)。また、(人証略)は、被告の職員が保有していた退職金規程を回収し、この付箋を付したうえで返還した旨の証言をしているが、このことを裏付ける証拠もない(かえって、<証拠・人証略>によれば、当時の職員が有していた退職金規程には、右付箋が付されていないことが認められる。)。

確かに、前記認定のとおり、昭和五一年二月以前に採用され、同月以降に退職した被告の職員五名に支給された退職金をみると、中尾に支給された分は、五年間については旧規程、その余の期間については新規程に基づいて計算されたものと思われ(ただし、新旧両規程の文言に反し、採用後一年未満の期間も算入されている。)、この点を捉えれば、原告の主張に沿うかのようにも思える。しかしながら、山崎及び中岡に支給された分については、新旧いずれの規程によったのか、その計算根拠が明らかでないし、池内及び奥井に支給された分は、明らかに新規程に基づくものといわなければならず(ただし、新規程の文言に反し、採用後一年未満の期間も算入されている。)、新規程が制定された後も、昭和五一年二月以前の採用者の退職金算定については、旧規程の支給率を適用するとの扱いがなされていたということはできない。

右の事情に、原告が本件訴訟において、当初新規程の支給率の適用を受けることを前提に、新規程の二四条二項を根拠として、退職金の倍額の支給を求めていたこと(この事実は、本件記録上明らかである。)、新規程が適用されるようになってから約二〇年が経過しているにもかかわらず、本件以外には、新規程の支給率の適用が問題とされた事例が見当たらないことを考え併せれば、昭和五一年二月一日以前に採用された職員の退職金計算については、旧規程に定められた支給率が適用されるとの定めがあったり、そのような取扱いが確立していたということはできず、むしろ、新規程の制定後は新規程所定の支給率によって退職金が算定されることについて、被告の職員もこれを了解していたというべきである。

したがって、原告の前記主張は採用できない。

3  また、原告は、平成七年四月に昇給したことを前提に、差額の給与の支払いを求めている。

(証拠略)によれば、新規程の一五条一項には、「職員が現に受けている号俸を受けるに至ったときから一二ケ月を下回らない期間を良好な成績で勤務したときは毎年四月一日定期に一号俸上位の号俸に昇給させることができる。」と規定されていることが認められるが、右文言によれば、昇給させるかどうかは、被告の決定に委ねられているというべきところ、原告に対する昇給が決定された形跡がないことに鑑みれば、右規定を根拠に、当然に原告の(ママ)昇給の効果が生ずると解することはできない。さらに、弁論の全趣旨によれば、被告においては、定期昇給が決定されるのが毎年七月ころであり、四月に遡って昇給分が支給されていたこと、これまで被告において、四月以降昇給が決定されるまでの間の退職者に対して昇給分が遡って支給された事例が見当たらず、したがって、そのような取扱いが確立していたとも考えられないこと、平成七年三月三一日の時点では既に原告が同年五月三一日に退職することが決まっていたことを考えれば、仮に、他の職員の全員が同年四月に昇給したとしても、そのことから直ちに、原告に対する昇給が行われたとか、原告も、当然に昇給していたとすることはできない。

よって、原告に(ママ)右主張も採用できない。

4  原告は、さらに、期末手当てが賃金の後払いの性質を有することを理由に、平成七年六月に支給されるべき期末手当ての支払いを請求する。

確かに、被告の新規程には、毎年三月、六月及び一二月に期末手当てを支給することを定めており(なお、<証拠略>によれば、六月の期末手当ての支給日が同月一五日であることが認められるが、三月及び一二月の期末手当ての支給日は、本件証拠上明らかでない。)、また、期末手当てに賃金の後払いとしての側面があることは否定できない。しかしながら、期末手当ての性格は、右にとどまるものではなく、就業規則や慣行によって、支給の要件を定めることも、それが合理的なものである限りにおいては、許されるというべきである。

ところで、被告には期末手当ての支給の要件を定めた就業規則(給与規程)はないが、(証拠・人証略)及び弁論の全趣旨によれば、池内は昭和六二年五月一五日に、西本裕子は平成二年五月一五日に、奥井は昭和六三年七月三一日に、それぞれ被告を退職したが、退職した年の六月、あるいは一二月に支給される期末手当ての支払いを受けていないことが認められ、また、期末手当ての支給日などの基準となる日以前に退職した職員に期末手当ての全部または一部が支払われた例も見当たらないし(職員の退職日が期末手当ての支給日等と一致することは希と思われ、原告の主張を前提とすれば、退職した職員の多くが幾ばくかの期末手当ての支払いを受けて然るべきことになる。)、原告以外に期末手当ての支給日等の前に退職した職員が期末手当ての支払いを求めて紛争となった形跡もない。

右の事情に照らせば、被告においては、期末手当ての支給につき、支給日などの基準日を設け、その日に在職している職員に対してのみ、期末手当てを支給するとの慣行があったというべきであるが、この種の慣行自体は、手当ての支給に関する画一的、集団的処理の要請に資するものであるといえるし、多くの企業等が同旨の就業規則を制定していることや同様の慣行的取扱いをしていることなどの事情に鑑みれば、特に不当であるとはいえず、他に被告の取扱いを不合理とすべき特段の事情も見出せないのであるから、原告にも右慣行の効力が及ぶといわざるを得ない。

なお、原告は、同年六月分の給与の支払いを受けたことを強調するが、そのことと原告の期末手当ての支給を受ける権利の有無とは無関係というべきである。

よって、原告には、平成七年六月支給分の期末手当ての支払請求権がないというべきであるから、原告の前記主張は理由がない。

5  以上判示の次第で、原告の主位的請求はいずれも失当であり、棄却を免れない。

三  次に、原告の予備的請求について検討する。

1  原告は、本件解雇が被告の新規程二四条二項所定の「整理による退職」に該当する旨を主張し、退職金の倍額の支払いを請求する。

2  確かに、前記認定の事実によれば、本件解雇については、懲戒事由の存在に疑問が残るといわざるを得ないし、そもそも、懲戒解雇の意思表示がなされたかどうかについても疑わしい点があり、本件解雇が懲戒解雇であるとする被告の主張をそのまま容れることはできない。

しかしながら、右「整理による退職」との文言は、総蓄(ママ)連の退職金規程(大阪府総合畜産農業協同組合連合会職員給与及び退職給与規程、<証拠略>)にも見られ、前記認定の経緯によれば、被告が総蓄(ママ)連の右退職金規程を導入する際に設けられたものと推測されるところ、総蓄(ママ)連がそのような規程を設けた趣旨やこれが被告の新規程に取り込まれた理由は明らかでない。そして、「整理による退職」とは、一般的には業務の縮小等によって余剰となった人員を整理するための解雇、退職などを意味するというべきところ、本件解雇による原告の退職がこれに該当しないことは明らかというべきである。また、退職金が正規の金額の二倍支給するとされていることからすれば、右「整理による退職」とは、通常あまり生じないような特殊な場合を想定したものと考えられるが、被告において、この規定の適用によって、倍額の退職金が支給された例も見当たらない。さらに、前記認定の事実によれば、原告が退職するにあたって、退職金の倍額の支給を求めたにもかかわらず、被告がこれを拒否したのであるから、少なくとも、被告においては、原告の退職が右「整理による退職」に該当しないとの認識を有していたことが窺われるのである。

3  右の事情に鑑みれば、原告の退職が被告の新規程に定められた「整理による退職」に該ると断定することができないというべきであり、したがって、原告の前記退職金の請求は、理由がないというべきである。

4  原告は、さらに、平成七年六月支給分の期末手当て(ただし、同年四月の昇給を前提としない分)を請求するが、原告は、その支給日たる同月一五日に在籍していなかったのであるから、右期末手当ての請求ができないことは、前記二4で判示したとおりである。

5  よって、原告の予備的主張もまた失当といわなければならない。

四  以上の次第で、原告の主位的及び予備的請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成九年一二月二二日)

(裁判官 長久保尚善)

別紙1

1年以上2年未満の期間 1年につき100分の100

2年以上3年未満の期間 1年につき100分の130

3年以上4年未満の期間 1年につき100分の140

4年以上5年未満の期間 1年につき100分の150

5年以上6年未満の期間 1年につき100分の160

6年以上7年未満の期間 1年につき100分の165

7年以上8年未満の期間 1年につき100分の170

8年以上9年未満の期間 1年につき100分の175

9年以上10年未満の期間 1年につき100分の180

10年以上は1年につき100分の5宛増加するものとする

別紙2

1年以上10年未満の期間 1年につき100分の100

10年以上20年未満の期間 1年につき100分の110

20年以上24年未満の期間 1年につき100分の120

24年以上の期間については1年につき100分の130

別表 退職者のうち昭和51年2月1日に在職していたものの退職金一覧表

<省略>

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